阪神淡路大震災以降、重い屋根は地震に弱いという風評が流れました。本当にそうでしょうか?
もし、屋根の重量が耐震性を左右するのであれば、お寺の建物などは、ほとんど倒壊してしまいます。
建物の安全性は、様々な側面からみることが必要です。耐震性だけでなく、耐久性、耐風性なども含まれます。近年は、土石流などによって家ごと押し流されてしまっている被害も少なくありませんし、竜巻被害なども発生しています。
一つの側面から見れば、「 重たい屋根の方が耐震性の安全率は高い 」ということも言えます。通常、屋根が重くなると、それに耐える壁量が必要になります。 震災時には、屋根の重量の割合に対して壁量が足りない建物が、倒壊したわけです。
たとえば、屋根面積が同じとして、
10の重量に耐える屋根と5の重量に耐える屋根に対して、それぞれ必要な壁量が備わっていたとします。
その建物に、同じ1 という重量(たとえば積雪)が加わった場合、
10の建物は10%の重量増ですが、
5の建物には20%の負担が増えます。
壁の耐力は、5の建物には余裕が無くなっているという事になります。
耐風性という観点からみると、台風や竜巻による建物への影響を考えなければなりません。重い屋根の建物は、その重量によって、建物を下(地面)へ押す力が強く働きますし、重い屋根材に対応するだけの壁量が施され、また、太い柱などが使われています。そのため、地に根の生えたようなしっかりした基盤構造になり、少々の風や振動にはビクともしません。それが、軽いと揺れも大きくなります。近年では、あまり経験したことのない竜巻や突風(ダウンバースト)のような災害による建物被害も出ています。軽量な屋根材や金属屋根などを基準にした建物(軽量屋根のため柱などが細い場合がある)などは、重量の重い屋根材で耐震工法を施されている建物と比べて、被害が多いことが被災地からも報告されています。
近年の一般的な建物は、柱などの骨組みを金属製の金具で結合する施工方法になっています。昔の大工さんが施してきたような“ほぞ”によって結合することが少なくなりました。そのため、建物自体の柔軟性が昔の建物より減少しています。伝統的なお寺などの建築物は金属製の金具での結合は行っておりませんので、揺れは大きくても柔軟性があります。有名なお寺などが過去の震災をくぐり抜けてこられたのも、こういった匠の技術の賜です。ただ、近年の一般住宅も耐震性能を高めた様々な工法を取り入れていますし、政府による耐震基準も打ち出されていますので、軽量屋根が耐震性に弱いとは一概には言えませんが、重量屋根と軽量屋根の建築構造の基本的な違いを知っておくことは必要だと思います。よく、重量屋根が耐震性に劣っているなどと安易に謳っている方々がいますが、彼らは、こういった構造的な違いを認識していないことを自ら公言していることになります。
ですから、総合的な建物の安全性という観点からみた場合、自分たちの建物は、耐震性には優れていても、耐風性や耐久性、静寂性、騒音性などといった側面はどうなのかといった様々な安全性についてもみていくことが必要かと思われます。