各地で地震が相次いでおり、その度に「瓦が重い」という理由だけを大きく取り上げて、軽量化することが建物倒壊を防ぐことにつながるという報道がなされます。その点について、もう少し根本的なことを挙げてみたいと思いますので、読者の方も、一面的な意見だけを信じるのではなく、様々な意見を受け入れ、客観的な判断をしていただきたいと思います。
通常、「屋根瓦が重い」と言われ、瓦だけを捉えていることがありますが、屋根の重さの中身というのは、瓦の重量だけではありません。2階部分の中間から上部分の壁を含めた重さが屋根の重さと考えるべきではないでしょうか?
屋根材、野地、母屋、天井、そして、壁の上半分と二階の床などの合計です。それら全体の合計ですから、屋根材だけを軽くしても効果はさほど大きくはありません。では、なぜ瓦だけがクローズアップされるのか?それは、「瓦が重い」と、表現する方が一般の方には分かりやすいからだと思われます。地震による映像では倒壊した建物の上に瓦が飛散している様子が映し出されているものがあり、実況報道でも瓦が散らばっていることを伝えるため、こういう映像を見れば、「倒壊原因は重い瓦だ」などと勝手に想像してしまうことがあります。まして、阪神大震災以降、あまりにも瓦の重さが象徴的に取り上げられてきましたから、瓦の重さが原因という根拠のないイメージが一般に植え付けられていることも大きな要因です。地震の映像を見ていると、重い瓦屋根の建物だけでなく、軽量化された板金屋根等の建物も倒壊しているものがあります。軽い屋根も倒壊しているという事実をみれば、屋根の重さという捉え方が瓦だけではないということが分かると思います。
屋根の重さを瓦だけでなく、ニ階の床から上全体であるというように捉えると、「軽い屋根」というよりも「丈夫な建物」であることの方が大事なことではないでしょうか?家が倒壊する本当の理由がどこにあるのかを確認せずに、「重い瓦」だけを理由に掲げるのは、あまりにも安易すぎると思います。
では、建物の倒壊はどのようにして起こるのでしょうか?地震が発生すると、その揺れにより建物が縦横に動きます。そして、その影響で、骨組みである柱、梁、小屋組などの接合部(仕口、ほぞ)を引き抜こうとする力が発生します。柱などの接合部は一定の抵抗をしますが、抵抗以上の揺れ(力)を受けると接合が離れ、ひき抜かれてしまいます。そうなると柱などの骨組みが崩れ、その結果、建物全体の倒壊となります。
では、柱などの抵抗力を高めるにはどうすればよいのか?それは、「壁の割合と壁の配置」です。壁のことはニュースなどではほとんど取り上げられませんが、実は、この壁が最も大事な部分です。壁の割合と配置が適切であれば、柱など、骨組みへの負荷が軽減され接合部の引き抜きが緩和されます。いわゆる、「引き抜き力」が高まるのです。これが高まると柱などの骨組みの接合部が離れにくくなります。骨組みが崩れない限り、建物の倒壊は発生しません。揺れによって、瓦が落ちたり、壁にヒビが入ったり、多少の崩れは発生しても、倒壊にまでは及びません。実は、屋根の重量が重いことも、この「引き抜き力」を高める要素の一つでもあります。上からの重量によって接合部の抵抗を高めているのです。2000年以降は、接合部を金物部材で補強することが義務付けられており、「引き抜き力」を高めていますが、ただ、建物の揺れに対する柔軟性は減少しています。柔軟性を高めるには、接合部は昔ながらの「ほぞ」という接合の方法が最も効果的だと言われています。現在では、こういう施工ができる大工が減ってきていますが、大変残念なことです。
近年、耐震化リフォームの一つの方法で、屋根の軽量化や壁などの増量、筋交いなどの補修、土台の補強など、耐震工事を行えば、自治体から助成金支援などというものがあります。当社でも土葺きの瓦屋根を土無しの瓦屋根に葺き替えする工事などを数多く請け負わせていただいております。これは、屋根の重さを軽くすることによって耐震性を高めることで地震による倒壊をできるだけ軽減するという方法を自治体は推奨しています。これは、昭和56年以前の建物を対象にした支援策ですから、近年の建物は対象外です。当時の建物は構造計算などがきちんと施されたわけでもなく、屋根材も日本瓦が中心で、耐風性対策として、重い屋根が良いというふうに昔ながら捉えられてきましたから、上記しました壁の割合や配置と屋根の重量が適合されているかどうかなどというものは、ほとんど考えられていなかったと思われます。それでは、軽量化すれば耐震性が高まるのかどうかということですが、地震状況の写真などには、軽量化された建物ですら倒壊している姿が映っています。では、軽量化が全く効果がないかというと、そうでもありません。古い建物などの軽量化は一定の効果は有ると考えます。しかし、極めて限定的だと捉えるべきで、軽量化によって十分に安全になった等と考えて安心してはいけないと思います。やはり、建物自体の丈夫さという全体的な観点からの耐震補強が不可欠だと認識する必要があると思われます。
このようなことから、今一度、「丈夫な建物」とはどのようなものか?を考えて頂きたいと思います。自治体などでは耐震施策の一環として耐震診断なども行っているところもありますから、ご自分の家がどの程度の耐震性があるのかを一度診断されてもよいのではないでしょうか。
この課題については、これからも取り上げていければと考えます。